砂地から細い体を伸ばし、流れの中でゆらゆらと揺れているチンアナゴ。泳ぎ回って餌を追いかけるようすもないのに、何を、どうやって食べているのでしょうか。
チンアナゴの仲間は、体の後ろの部分を砂の巣穴に残したまま、流れに運ばれてくる動物プランクトンをとらえて食べています。2022年に沖縄科学技術大学院大学(OIST)などの研究者が水路で行った実験では、チンアナゴは流れが強くなるほど体を短く曲げて出し、さらに強い流れでは巣穴に引っ込みました。流れが速いほどたくさん食べられる、というわけではなかったのです。この実験を中心に、巣穴や群れでの暮らしもあわせてSOLBOY DIVE CENTERが解説します。
実験に使われたのは飼育下のチンアナゴ(Heteroconger hassi)5個体で、紹介する数字はこの種・この実験の条件での値です。ほかのガーデンイールや野外の海にはそのまま当てはまらず、紹介する研究もマクタン周辺の海で行われたものではありません。
体の後ろを巣穴に残して食べる魚
英語でガーデンイールと呼ばれるチンアナゴの仲間(チンアナゴ亜科)は、2022年の論文の時点で世界の熱帯に36種が知られ、たいていはサンゴ礁の近くの砂地にすむ、動物プランクトンを食べる魚です。動物プランクトンについてはプランクトンの記事で取り上げています。
同じ論文は、ガーデンイールを、体の後ろの部分を巣穴に残して砂底につなぎとめられたまま食べる、その場から動かない魚と説明しています。食べている間も、砂に埋まった体の後ろ側が「いかり」の役目をしているのです。2024年の研究もこれまでの知見として、チンアナゴの仲間は自分で掘った巣穴から頭と胴を出し、流れによって運ばれてくる動物プランクトンを食べると紹介しています。
体をどれだけ出すかは、いつも同じではありません。横浜・八景島シーパラダイスの飼育員は、チンアナゴが水流の向きや強さによって、体を出す長さや姿勢を調整していると説明しています。この関係を条件をそろえて測ったのが、2022年の研究です。
2022年の水路実験の条件
実験は、底に砂を入れた循環式の水路(試験区の長さ290cm・幅30cm・高さ30cm、砂を入れたくぼみの深さ40cm)で行われました。流れの速さと餌の量を変え、食べるようすを撮影して調べています。
- チンアナゴ:全長18.0〜30.5cmの5個体(体の動きの立体的な解析は3個体)。インド太平洋に分布し、沖縄でよく見られる種で、業者から購入した個体
- 水温:25℃(±0.5℃)
- 餌:孵化して1日のアルテミアの幼生(体長約0.59mm)
- 食べ方を調べた流れの速さ:秒速10〜25cm
- 餌の量:水1m³あたり100〜1000個
アルテミアの幼生は実験用の餌で、海でチンアナゴが食べている動物プランクトンそのものではありません。
水路実験では、速い流れで食べるペースが下がった
流れの速さを一定にして餌を増やすと、チンアナゴの食べるペース(摂餌速度)はほぼ直線的に増えました(流れは秒速10cmと20cm、餌は1m³あたり100〜1000個)。試した範囲では頭打ちになりませんでした。
次に、餌の量を一定にして流れを速くしました(餌は1m³あたり300個と1000個)。流れが速くなれば、目の前を運ばれてくる餌はその分だけ増えます。ところが食べるペースはそれに見合うほど増えず、秒速20cmまでは下がらなかったものの、秒速25cmでは秒速10cmのときより下がりました。
この水路で流れが秒速30〜35cmを超えると、チンアナゴは巣穴に引っ込みました。口先だけを出すこともありましたが、食べようとはしませんでした。研究者らは、口先を少し出すのは流れを感じ取るため、引っ込むのは食べるために使うエネルギーが、食べて得られるものを上回るからかもしれない、と解釈しています。どちらも直接確かめられたものではありません。
研究者らは、この実験のチンアナゴにとって最も得になるのは、秒速10〜20cmの流れで食べるときだったと見積もっています。食べるペースと、後で紹介するエネルギーの目安から導いた、飼育実験での推定です。
強い流れの中では、体を短く曲げて出していた
3個体の動きを立体的に解析すると、流れが速いほど、巣穴から出ている体の長さと体を動かす範囲が小さくなり、餌に飛びつく距離と時間も短くなりました(餌は1m³あたり1000個)。研究者らは、流れが強いときほど近くの餌に絞って飛びつくようになったと考えています。一方、餌に気づいて反応し始める距離には統計的にはっきりした差が見られず、餌を見つける能力は流れの影響を受けていなかったと考えられています。
研究者らは、体を直径0.5cmの円柱のつながりとみなして、流れから受ける抵抗(抗力)を計算しました。秒速25cmで観察された、体を曲げて短く出す姿勢では、秒速10cmのときと同じ長さでまっすぐ出したと仮定した場合より、抗力が56.8%小さいという計算結果でした。姿勢と長さを変えなければ秒速10cmのときの6.0倍になるはずの抗力が、2.6倍にとどまっていたという見積もりです。いずれも力を測ったのではなく、計算による比較です。
映像から読み取った体の動きで見積もった、行動に使うエネルギーの目安(VeDBAという加速度の指標)は、流れの速さによって有意には変わりませんでした。ただし、巣穴に体をとどめた魚で、この目安が実際のエネルギー消費とどう対応するかはまだ示されていないと、著者ら自身が述べています。
別の種や野外の海では、結果が違うこともある
2022年の論文によると、紅海でシンジュアナゴ属の一種 Gorgasia sillneri を調べた2018年の野外研究では、食べるペースが流れの速さとともに、また餌の量とともに増え続けました。チンアナゴの水路実験とは逆の傾向です。この2018年の研究の G. sillneri は、強い流れのとき抗力を大きく減らしつつ、頭は海底から十分に高く保っていて、姿勢の取り方もチンアナゴと同じではありません。
2022年の論文の著者らは、この違いは実験の条件によるのか、種の違いによるのかもしれないと述べていて、どちらなのかはまだ分かっていません。
自然の海の流れとの関係も単純ではありません。2022年の論文の筆頭著者が2024年にまとめた博士論文では、沖縄県恩納村の水深約16mにあるチンアナゴの生息地で、2022年7月14日から8月14日まで海底から60cmの高さの流れを測りました。平均の流れが秒速10cm未満だった時間は72.2%、秒速20cmを超えたのは2.9%でした。1地点・1か月の測定で、季節や場所によって変わります。水路の数字から、海でのチンアナゴの出方を言い当てられるわけではありません。潮の流れそのものについては、潮の流れの記事で解説しています。
粘液で固めた、体に合う巣穴
巣穴を粘液で固めていることは、複数の研究や水族館の解説で一致しています。1992年に巣穴の形を調べた研究は先行研究を引いて、もろい巣穴が皮膚の腺から出る粘液で裏打ちされていると述べ、1996年に紅海の G. sillneri などの皮膚を調べた研究も、粘液が砂粒を巣穴の壁にくっつけるのを可能にしているとしています。八景島シーパラダイスの飼育員によると、チンアナゴは入口を粘液で固めているので、姿が見えなくても巣穴がわかります。
ただし、粘液が砂をまとめる「のり」としてどう働いているのかは、まだ仮説の段階です。2020年にチンアナゴなど2種の皮膚を調べた研究は、表皮の腺細胞がつくる糖たんぱく質の膜が巣穴の壁を安定させ、皮膚の摩擦を減らしているという仮説を示しています。
巣穴の形も、まっすぐな縦穴とは限りません。1992年の研究で樹脂を流し込んで型を取った、チンアナゴを含む6種の巣穴は、どれも基本的に体の左右方向に波打つ形でした。太さは、ひれを除いた体の最も高い部分より2mmほど広い傾向がありました。ただ、型の多くは下の端まで取れておらず、巣穴の深さを数字で言い切ることはできません。
群れで暮らし、驚くと巣穴へ引っ込む
ガーデンイールは群れ(コロニー)で暮らし、昼間に巣穴から体を出して動物プランクトンを食べます。ジョージア水族館の解説では、チンアナゴは数百匹までの群れで暮らし、1匹ずつが自分の巣穴を持つとされています。
チンアナゴは警戒心が強く、すぐに砂の中に潜って隠れてしまうと、すみだ水族館は説明しています。八景島シーパラダイスの飼育員も、ほかの生き物や頭上の影が近づくと体を巣の中に隠すと紹介しています。一方、すみだ水族館のチンアナゴは来館者がいることが日常のため、人が近づいても潜ることは少ないそうです。
紅海に面したイスラエルのエイラートで G. sillneri を調べた2025年の研究では、ダイビングの利用が多い地点のほうが少ない地点より、ダイバーの接近で巣穴へ引っ込み始める距離が短いという結果でした。著者らは、人の存在に慣れ、餌が多いときはダイバーから隠れるより食べることを優先していると解釈しています。ただし、近づいても構わないという意味ではありません。
海の生き物を観察するときは、触れない・追いかけない・刺激しない・距離をとることが基本です。引っ込むようすを見ようと近づいたり、巣穴のまわりの砂に触れたりするのはやめましょう。詳しくは観察マナーの記事をご覧ください。
流れの中の食事を思い浮かべながら
じっとしているように見えるチンアナゴも、流れに合わせて体の出し方を変えながら食べていることが、研究から見えてきました。セブの海にすむ生き物は海の生き物の紹介ページで、当店のダイビングプログラムは体験ダイビングとファンダイビングのページで紹介しています。わからないことはLINEからお問い合わせいただけます。
よくある質問
チンアナゴは何を食べているのですか?
流れに運ばれてくる動物プランクトンです。2024年の研究はこれまでの知見として、チンアナゴの仲間はとくにカイアシ類を好むと紹介しています。1992年の論文は、ガーデンイールを多くのウナギの仲間と違って目で見て餌をとる魚としています。2022年の実験で与えたアルテミアの幼生は、自然の海の食べ物とは違います。
流れが速いほど、たくさん食べられるのですか?
2022年の水路実験のチンアナゴでは、そうではありませんでした。秒速25cmでは秒速10cmのときより食べるペースが下がり、秒速30〜35cmを超えると巣穴に引っ込みました。一方、紅海の Gorgasia sillneri の野外研究では、流れが速いほど食べるペースが上がっていて、違いの理由はまだ分かっていません。
群れのチンアナゴが同じ方向を向いているのはなぜですか?
ジョージア水族館の解説では、流れ過ぎる動物プランクトンをつまみ取って食べるため、群れのチンアナゴはたいてい流れの来る方を向くと説明されています。伊豆半島・大瀬崎のアキアナゴ(Gorgasia taiwanensis)でも、流れてくる餌を食べるために多くの個体が同じ方向を向いていると報告されています。
ダイバーが近づくと引っ込むのはなぜですか?
チンアナゴは警戒心が強く、ほかの生き物や頭上の影が近づくと巣穴に隠れると、水族館は説明しています。紅海の Gorgasia sillneri ではダイビングの利用が多い地点のほうが引っ込み始める距離が短かったという研究がありますが、近づいても平気という意味ではありません。距離をとって観察しましょう。
まとめ
チンアナゴの仲間は、体の後ろを巣穴に残していかりのようにし、流れが運んでくる動物プランクトンをとらえて食べています。2022年の水路実験では、飼育下のチンアナゴは流れが強くなるほど体を短く曲げて出し、さらに強い流れでは巣穴に引っ込みました。この実験では、流れが速ければ速いほど多く食べられたわけではありませんでした。
ただし、これは1種を水路で調べた結果で、紅海の別の種では、流れとともに食べるペースが上がるという逆の傾向も報告されています。巣穴に引っ込む理由や、巣穴を固める粘液の働きにも仮説の部分が残っており、海の中でのチンアナゴの食事には、まだ分からないことが多くあります。