ダイビング中、まわりに広がる青い水。同じ海を泳ぐ魚たちにも、海は青く見えているのでしょうか。それとも、人とはまったく違う色に映っているのでしょうか。
魚の目に海が何色に映っているのか、その感覚そのものは、今の研究でも測れていません。分かるのは、目がどの波長の光に反応するのかと、2つの光の違いを見分けられるのかまでです。その範囲で、色を感じる細胞の組み合わせは魚の種類によって大きく違い、人には見えない紫外線を感じる魚もいれば、感じない魚もいることが分かってきました。2024年には、カクレクマノミが灰色に近い淡い色のうち、紫外線の成分が多い色ほど灰色との違いを見分けやすかったという水槽実験も報告されています。
人とは違う目で海を見ている魚たちについて、SOLBOY DIVE CENTERが、分かっていることとまだ測れていないことを分けて解説します。紹介する研究の中心は、オーストラリアの大学で観賞魚店から入手したカクレクマノミを調べた実験で、ほかの研究も含めて、マクタン周辺の魚を調べたものではありません。
色を見分ける目のしくみ
日本の研究者による総説(これまでの研究を整理した論文)によると、色覚とは光の波長の違いを識別する感覚で、感じる波長域の違う光センサーを目の中に何種類もち、その範囲がどう重なっているかでおおむね決まります。網膜の視細胞のうち、桿体は感度が高く薄暗いときの視覚を担いますが、基本的に色覚には関係しません。昼間の視覚と色覚を担うのは錐体です。
光センサーの分子は視物質と呼ばれ、オプシンと発色団からできています。脊椎動物のオプシンは、桿体で働く1タイプ(RH1)と、錐体で働く赤-緑・緑・青・青-紫外線の4タイプに分けられます。人の色覚に使われる錐体オプシンは3種類です。同じ総説によると、原則として、錐体の視物質が3種類なら3色型、4種類なら4色型の色覚になります。
魚の目は、種類によって大きく違う
2020年に硬骨魚類の視覚研究をまとめた総説によると、魚の種類全体で見ると、感じる光の範囲は紫外線から赤までにわたり、視物質の数は種によって1から40以上まで違います。この違いは、濁った湖、澄んだ海、深海など、すむ水の環境や生活のしかたと相関しています。ただし「40以上」には深海魚が暗いところで使う桿体のオプシンが含まれ、色覚を担う錐体の数ではありません。
錐体オプシンでも、遺伝子の数と実際の働きは別です。同じ総説によると、硬骨魚類のゲノムにある錐体オプシン遺伝子は中央値で6個です。一方、2019年の研究で36種の網膜で実際に使われている遺伝子を調べると、24種は錐体オプシンを最大4種類しか使っていませんでした。日本の総説も、錐体オプシンを7〜8種類もつ魚が、7色型や8色型の色覚をもつわけではないだろうと述べています。遺伝子の数を、そのまま「見える色の数」に置き換えることはできません。
紫外線を感じる魚と、感じない魚
紫外線を受け持つのは青-紫外線タイプ(SWS1)のオプシンで、2020年の総説がまとめた範囲では、最もよく反応する波長は347〜383 nm(ナノメートル)です。日本の総説によると、沿岸や川など浅いところにすむ魚には錐体オプシンの種類が多いものがいて、その中に紫外線センサーもごく普通に含まれています。2021年のクマノミ類の研究論文も、紫外線の豊富な浅いサンゴ礁などでは、小型の硬骨魚が紫外線型のオプシンを使っていることが多いと述べています。
ただし、すべての魚が紫外線を感じるわけではありません。サンゴ礁の魚211種で、目の透明な部分(角膜や水晶体など)の光の通し方を測った2001年の研究では、50.2%の種が400 nmより短い波長を強く吸収していて、紫外線を感じる可能性は非常に低いとされました。残りの種の目は紫外線を通しますが、それは感じることが「可能」だという意味です。2019年の研究で硬骨魚類100種などのゲノムを調べると、紫外線型のSWS1は46種で見つかりませんでした。
日本水産学会誌に発表された2000年の研究では、海産魚の網膜の電気的な反応を調べたところ、ホウボウなど5種は337 nmと368 nmの両方の紫外線に、マダイとヘダイは368 nmだけに反応し、コノシロなど4種は紫外線に反応しませんでした。網膜の反応は色として見分けている証明ではありませんが、紫外線への反応は魚によって違います。さらに2020年の総説によると、動物プランクトンを食べる浮遊生活の稚魚の時期だけ紫外線を感じ、浮遊生活を終えて食べ物が変わると感じなくなる種もいます。
カクレクマノミで確かめた2024年の実験
紫外線を感じる錐体があることと、それを使って色を見分けていることは、別の問題です。これを行動で確かめたのが、オーストラリアのクイーンズランド大学などの研究者が2024年に発表した、カクレクマノミ(Amphiprion ocellaris)の実験です。クマノミとイソギンチャクの関係は、クマノミとイソギンチャクの記事で紹介しています。
光の点の中から、色の違う1点を選ぶ
実験には地元の観賞魚店から入手した魚が使われ、9匹で網膜の錐体の感度を測り、すべてメスの11匹で行動実験を行いました。測定では、感度のピークが386 nm付近にある紫外線型の単錐体と、ピークの異なる3タイプの複錐体が見つかりました。目の水晶体は紫外線の一部を吸収しますが、一部は網膜まで届きます。
課題は、人の色覚検査(石原式)にヒントを得たものです。水槽の中に置いたLEDの表示装置に光の点を38個出し、1つだけを色のついた点、残りの37個を灰色の点にして、色の点をつつくと餌がもらえるよう訓練しました。明るさの違いで正解を探せないよう、灰色の点の明るさは何段階か用意されています。灰色の点を正解にした確認の試行では、魚が正解をつついたことは一度もありませんでした。
紫外線の成分が多い色ほど、小さな差で見分けた
試験は11匹で合計3921回行われ、色が灰色からどれだけ離れると見分けられるか、という境目(閾値)が調べられました。全体として、紫外線の成分が多い色は、少ない色より閾値が低く、灰色とのわずかな差でも見分けられました。系列ごとに見ると、紫外線の多い色の閾値が低かったのは青・緑・紫の系列と比べたときで、赤とオレンジの系列は紫外線の成分が多いとも少ないともいえない色でした。
研究チームが錐体の感度と行動の結果をモデルで比べると、4タイプの錐体をすべて使うモデル(4色型)が結果に最もよく合い、錐体を1タイプずつ除いた3色型のモデルは、どれも結果から統計的にはっきりずれました。著者らは、紫外線型の錐体が3タイプの複錐体とともに「推定上の4色型」の色覚に役立っていると結論しています。
「推定上の4色型」にとどまる理由
この結果は、4色型の色覚を証明したものではありません。論文自身が、次のような限界を挙げています。
- 調べたのは灰色に近い淡い色の見分けだけで、鮮やかな色どうしでも同じ差があるかは今後の課題です。
- 網膜で錐体どうしの信号がどう比べられているかを全体的に調べないと、働きのうえで3色型か4色型かは確定しないとされています。
- 色の好みなど、網膜より後の処理の影響を完全には除けていません。
- 対象は観賞魚店から入手したカクレクマノミ1種で、水槽の中の人工の光を使った実験です。野生の海での見え方を測ったものではなく、ほかのクマノミの仲間やサンゴ礁の魚全体には当てはめられません。
紫外線の成分がクマノミの体の模様や、餌になる動物プランクトンの輪郭を目立たせている可能性が高い、という著者らの解釈も、水槽実験からの推論です。
すむ水の光と、魚の目の関係
2020年の総説によると、水の中の光の環境は溶けている有機物や堆積物の量で大きく変わり、青い海の生き物は、緑がかった湖の生き物より短い波長側の色覚をもつ傾向があります。紫外線は水中ですぐに散らばりますが、1999年に魚の紫外線視覚をまとめた総説によると、澄んだ水では少なくとも水深100 mまで、生き物が利用できる量が届きます。人の目に水中の色がどう変わって見えるかは水中で色が変わって見える理由の記事で、人の見え方と聞こえ方は水中の見え方・聞こえ方の記事で取り上げています。
ただ、環境と目の対応の多くは、相関や推定にもとづくものです。2020年の総説は、視覚にばらつきがあること自体は働きの違いを意味せず、視覚の違いが生存や繁殖に実際に効いている証拠は多くの研究で欠けていると注意しています。日本の総説も、色覚は高度なほどよいわけではないとし、光があまり届かない深い水中などでは、光センサーの種類が少ないほうがむしろ波長の識別に適していると説明しています。
結局、魚に海は何色に見えているのか
研究をふまえても、「魚には海がこう見えている」とは言えません。網膜の測定で分かるのはどの波長の光に感度があるか、行動実験で分かるのは2つの光の違いを見分けられるかで、その光が魚にとって何色の感覚なのかは、どちらの方法でも測れません。2024年の論文も、刺激につけた色の名前は、それが魚にどう見えるかを意味しないと明記しています。1999年の総説は、紫外線が見えない人が魚の行動の見た目にかかわる部分を理解しようとすると大きく間違える可能性があると指摘し、人の目に同じ黄色に見えるものが、魚には「黄色」と「紫外線を含む黄色」という別の色でありうると例を挙げています。
言えるのは、魚の色覚は種によって大きく違い、カクレクマノミのように水槽の実験で紫外線を含む色の違いをよく見分けた魚がいる一方で、紫外線を感じない魚もいるということです。同じ海の中にいても、人と魚が受け取っている光の情報は同じとは限りません。
同じ海を、人とは違う目で見る生き物たち
紫外線は人の目には見えないので、潜っても、魚が紫外線をどう使っているのかを自分の目で確かめることはできません。それでも、人に見えない光の違いを手がかりにできる魚がいると知ってから水中の景色を眺めると、少し違って感じられるかもしれません。セブの海にどんな生き物がいるかは、海の生き物の紹介ページにまとめています。実際に潜ってみたい方は体験ダイビングとファンダイビングの案内からどうぞ。気になることはLINEからご連絡ください。
よくある質問
魚はみんな紫外線が見えるのですか?
いいえ。サンゴ礁の魚211種では約半数の種で目の透明な部分が紫外線を強く吸収し、硬骨魚類100種などのゲノム調査では紫外線型のオプシン遺伝子が46種で見つかっていません。成長とともに紫外線を感じなくなる種もいます。紫外線を感じる錐体をもつ魚は、浅い水域の小型の魚に多い傾向があります。
錐体オプシンの遺伝子が多い魚ほど、たくさんの色が見えるのですか?
そうとは限りません。36種の網膜を調べた研究では、24種が実際に使う錐体オプシンは最大4種類でした。2021年の研究ではカクレクマノミの網膜で使われる錐体オプシンは6種類でしたが、2024年の測定で見つかった錐体のタイプは4つです。遺伝子や視物質に違いがあることだけで、働きの違いを意味するわけではありません。
カクレクマノミは4色型の色覚だと証明されたのですか?
証明はされていません。論文の表現は「推定上の4色型」です。調べたのは灰色に近い淡い色の見分けだけで、網膜の信号の処理を全体的に調べないと、働きのうえで3色型か4色型かは確定しないとされています。
深い海にすむ魚は、色をどう見ているのですか?
NOAA(アメリカ海洋大気庁)によると、海では200 mより深くに意味のある量の光が届くことはまれです。2019年の研究で、深海魚の Diretmus argenteus(英名 silver spinyfin)は桿体オプシンを38個もつことが分かりましたが、桿体は基本的に色覚には関係せず、たくさんの桿体で色を見分けられるかはまだ確かめられていません。日本の総説は、光があまり届かない深い水中では、波長を識別すること自体の重要性も低いと説明しています。
まとめ
魚の目に海が何色に映っているのか、その感覚は今の研究でも測れません。分かるのは目の感度と、見分けられる光の違いです。その範囲で見ると、魚の色覚は種によって大きく違い、紫外線を感じる錐体をもつ魚もいれば、目が紫外線を通さない魚や紫外線型の遺伝子をもたない魚、成長とともに感じ方が変わる魚もいます。遺伝子の数も、そのまま見える色の数にはなりません。
2024年の実験は、カクレクマノミが紫外線の成分が多い淡い色ほど小さな差で見分けることを水槽の中で示し、推定上の4色型の色覚を支持しました。ただし、これは1種・この条件での結果です。紫外線を感じる魚が海の中でその光をどう使っているのかには、まだ分かっていないことが多く残っています。