砂地の小さな穴の前で、ハゼがじっと構え、そのすぐそばでエビがせっせと砂を運び出している。ハゼとテッポウエビ類は、どうやって一つの巣穴で暮らしているのでしょうか。
巣穴を掘って保つのはエビで、ハゼはその巣穴を隠れ家や産卵の場所として使い、入口の近くで見張りをします。巣穴の外にいるエビは、触角でほぼいつもハゼに触れていて、ハゼの尾の震えや急な動きをきっかけに巣穴へ引っ込みます。ただし、組み合わせは数多く、どのハゼも必ずエビと暮らすわけではありません。役割の分け方と、触れて伝える合図のしくみを中心に、SOLBOY DIVE CENTERがご案内します。
エビが掘った巣穴に、ハゼがすむ
一部のハゼは、テッポウエビ類が砂や泥の底に掘った巣穴を、巣と隠れ家として使い、エビと密接に暮らしています。1978年に発表された日本の研究によると、共生するハゼとテッポウエビ類の種は思いのほか多く、潮間帯から水深50mを超える場所まで、さまざまな底質で見られます。著者は、日本の南岸で20種以上のハゼがエビの巣穴にすむことを、自身の潜水観察で確かめました。
世界のサンゴ礁全体では、2024年の研究が、120種以上のハゼと20種のテッポウエビ類がこうした関係にあると紹介しています。数え方は資料によって違いますが、100を超える組み合わせが知られていることになります。
なお、「テッポウエビ」は1種(Alpheus brevicristatus)の和名でもあるため、この記事では仲間全体を「テッポウエビ類」と書きます。テッポウエビ類がはさみで鳴らす音は、テッポウエビの記事で詳しく扱っています。
掘るのはエビ、見張るのはハゼ
和歌山県田辺湾と愛媛県の宇和海で、ニシキテッポウエビとダテハゼを潜って観察した1984年の研究では、巣穴の外のエビは、平たいはさみに砂や泥を載せて運び出し、入口の屋根に小石や貝殻のかけらを積み上げていました。入口が崩れるのを防ぐためと見られています。
一方のダテハゼは、昼間のほとんどの時間を巣穴の入口の近くで過ごしました。巣穴は隠れ家であると同時に、産卵の場所でもあります。1982年の研究では、産卵に成功したオスは、産卵後4〜7日間、巣穴の中にとどまって卵を守りました。
こうした関係は、エビの巣穴がハゼを捕食者から守る避難場所になり、ハゼの視力と警戒がエビの役に立つ、と説明されています。オーストラリアのグレートバリアリーフで調べた2025年の研究も、エビは巣穴を掘って保ち、その見返りにハゼが見張り役として巣穴の外で警戒し、危険をエビに伝える、とまとめています。
触角で触れて、合図を受け取る
1984年の研究によると、ニシキテッポウエビは、巣穴から出て外にいるあいだ、ハゼとの触れ合いによる合図に完全に頼っています。巣穴の外にいるエビは、ほとんどいつも触角でハゼに触れていました。
エビが巣穴へ引っ込むきっかけは、ハゼが尾を震わせる動きだけでなく、ハゼのあらゆる急で突然の動きでした。尾を震わせる合図は、エビの触角がハゼに触れているときにだけ出され、観察した計940分の間に47回見られました。そのうち、合図の後にエビが巣穴へ引っ込んだのは12回です。合図が出るたびに必ずエビが逃げるわけではありません。
反対向きの合図らしい動きもあります。エビが巣穴から出てくるとき、ハゼがエビの触角の接触に、尾の部分をゆっくりうねらせて応えることがあり、このうねりの後には、ふつうエビが巣穴から完全に出てきました。520分の観察で74回見られ、そのうち54回でエビが出ています。
オーストラリアのリザード島のラグーンで、ヒメダテハゼとテッポウエビ類の123組を調べた2025年の研究では、船の騒音を聞かせると個々の行動には変化が出ましたが、相手との触れ合いによるやりとりは騒音の影響を受けませんでした。
夜は巣穴を閉じ、朝はハゼが先に出る
ニシキテッポウエビとダテハゼが巣穴の外で活動するのは、昼間に限られていました。夜になると、大部分の巣穴の入口は、エビが中から運び上げた砂や泥でぴったり閉じられます。
日の出の直後には、まずハゼが入口をふさぐ砂を破って出てきて、次にエビが出て入口を広げました。同居は、着底してすぐの幼い時期に始まり、一生続きます。ただし、ハゼが巣穴の間を移動して、同居の相手が入れ替わることもありました。
ニシキテッポウエビは、相手のハゼが分布しない海底には決して現れなかったと報告されています。一方で、ハゼがいなくても巣穴は掘れます。水槽でハゼを入れずに X線CT で巣穴を撮影した2022年の研究では、ニシキテッポウエビが掘り始めてから210分を過ぎると、多くの巣穴で形が変わらなくなりました。樹脂で型を取った巣穴を比べた研究の紹介では、すむ場所や砂泥の種類のほか、共生するハゼがいるかどうかも、巣穴のつくりに影響すると考えられています。
大きさをそろえ、危険を冒すかどうかも連動
オーストラリアのヘロン島の水深0.3〜1.2mで、ヒメシノビハゼとテッポウエビ類を調べた2024年の研究では、同じ巣穴を使うハゼとエビは体の大きさがそろっていました。模型の脅威を近づける実験では、両者が危険を冒すかどうかは、互いに強く依存していました。
巣穴の前にいるハゼやエビに近づきすぎたり、砂をかき乱したりしないようにしましょう。海での生き物への接し方は、海洋保護区マナーのページを参考にしてください。
いつも一緒とは限らないハゼもいる
高知大学などの2020年の研究によると、120以上のハゼとエビの組み合わせは、相手なしでは見つからない絶対的な共生と考えられています。一方、この研究で調べた高知の干潟のハゼ Acentrogobius sp. 2 は、テッポウエビ(Alpheus brevicristatus)の巣穴を使うものの、満潮時の10分間の観察時間のうち約30%しか巣穴の入口の前にいませんでした。このハゼが巣穴へ逃げ込んだのは、雑食や肉食の魚やカニが近づいたときでした。
ハゼの見返りについては、ハゼの糞がエビにとって大切な餌になっている場合があるとも示唆されています。また、見張り役のハゼは目が大きく進化しているのでは、という考えについては、体の長さをそろえて比べると、エビと共生するハゼの目は単独で暮らすハゼより大きくなかったという結果が、査読前の論文で報告されています。
よくある質問
ハゼとエビは、どうやって危険を伝え合うのですか?
巣穴の外のエビは、触角でほぼいつもハゼに触れています。ハゼが尾を震わせたり、急に動いたりすると、エビは巣穴へ引っ込みます。日本のダテハゼとニシキテッポウエビの観察では、尾を震わせる合図は940分で47回、その後にエビが引っ込んだのは12回でした。
どのハゼも、エビと一緒に暮らしているのですか?
エビの巣穴にすむのは、一部のハゼです。相手なしでは見つからない組み合わせが120以上と考えられている一方、高知の干潟の Acentrogobius sp. 2 のように、巣穴を使うものの入口の前にいる時間が短いハゼもいます。
ハゼは、エビから何を得ているのですか?
エビが掘って保つ巣穴を、捕食者からの隠れ家と産卵の場所として使います。ダテハゼでは、産卵したオスが巣穴の中で4〜7日間卵を守りました。
まとめ
ハゼとテッポウエビ類の同居では、エビが巣穴を掘って保ち、ハゼはその巣穴を隠れ家や産卵の場所として使いながら、入口の近くで見張りをします。巣穴の外のエビは触角でハゼに触れ続け、ハゼの尾の震えや急な動きを受けて巣穴へ戻ります。
夜は巣穴を閉じ、朝はハゼが先に出るといった暮らし方は、日本のダテハゼとニシキテッポウエビで詳しく記録されています。一方で、相手なしでは見つからない組み合わせもあれば、巣穴を必要なときに使うハゼもいて、関係の強さは種によって違います。