タコには心臓が3つある、と聞いたことがあるかもしれません。本当に3つあるのでしょうか。あるとしたら、それぞれ何をしているのでしょうか。
タコには、体全体へ血液を送る「体心臓」が1つと、左右のえらへ血液を送り込む「鰓心臓」が2つあり、役割を分けて働いています。この3つの心臓のつくりは、タコ・イカ・コウイカの仲間(鞘形類)に共通しています。血液には、銅を含み、酸素と結びつくと青くなるヘモシアニンが溶けています。3つの心臓の役割と、泳ぐときの心臓の様子を、SOLBOY DIVE CENTERが、血液の通り道に沿って説明していきます。
体へ送る心臓1つ、えらへ送る心臓2つ
1980年に Octopus vulgaris を調べた研究は、体心臓と2つの鰓心臓の働きを扱っています。2019年の総説は、タコでは体心臓1つと、呼吸のための鰓心臓2つがあるとし、体心臓は脊椎動物の左心室にたとえられると述べています。
血液の通り道は、地中海の Octopus vulgaris を調べた2017年の研究で次のように説明されています。体から大静脈を通って戻った血液は、左右に分かれて腎嚢付属体を通り、鰓心臓に達します。鰓心臓から血液はえらへ送り込まれ、えらを出た血液は体心臓に入ります。そこから、酸素を含んだ血液が体へ送り出されます。
東京大学総合研究博物館のコウイカの解剖の解説でも、鰓心臓はえらの付け根にあって伸び縮みし、えらから出る血管はすぐに体心臓の心房につながっています。鰓心臓の後ろにある付属体には、鰓心臓へ送られる血液をこし取る部分があります。
閉鎖血管系と、無脊椎動物としては高い血圧
頭足類は、血液が血管の中だけを流れる閉鎖血管系の例とされます。博物館の解説によると、頭足類では血管が発達しているだけでなく、血管の壁が厚い筋肉の層で補強されている点が、ほかの軟体動物と違います。2015年の研究は、タコ・イカ・コウイカの仲間が3つの心臓と収縮する静脈で血液を送り、その血圧は無脊椎動物としては高いと述べています。
体重400〜1,000gの Octopus vulgaris では、安静時の血圧はおよそ2.0〜3.5kPaとされています。
3つの心臓を動かす仕組み
実験室で自由に動く Octopus vulgaris を調べた1980年の研究では、心臓につながる神経を切っても心臓は止まらず、力強く、よく協調して拍動を続けました。拍動のリズムは、ふだんは鰓心臓と神経節の部分にあるペースメーカーで決まっていると論じられています。体心臓は、血液で満たされたときにだけ収縮します。
神経は、運動したときに心臓が送る血液の量を増やすことや、外套膜の動きが止まったときに心臓を止めることに関わっているようです。
泳ぐと、心臓が止まる?
自由に動く Octopus vulgaris の大動脈の血圧と血流を記録した1987年の研究では、動き回ると、平均の血圧、拍動ごとの血圧の振れ幅、血流のいずれもおよそ2倍になりました。著者らは、運動で必要になる血液の量の増加は、ほぼ体心臓が1回の拍動で送る量を増やすことでまかなわれていると結論しています。
一方、同じ研究によると、水を噴き出して進むときには心臓の停止がともないます。噴射のときの外套膜の内側の圧と、太い静脈の圧を測ったところ、外套膜の内圧が上がると、静脈は血液を心臓へ戻せないと考えられました。著者らは、このタコが噴射で進めるのは数メートルまでだとしています。
噴射で泳ぐ仕組みはイカの泳ぎの記事に、タコが色を変える仕組みはタコの擬態の記事にまとめています。
青い血の正体、ヘモシアニン
タコやイカの血液に溶けている酸素の運び手は、ヘモシアニンです。ヘモシアニンは銅を含むタンパク質で、軟体動物や節足動物の血液に溶けた状態であり、酸素と結びつくと青い色になります。1979年の総説によると、その働きは脊椎動物のヘモグロビンにあたりますが、血球の中に閉じこめられておらず、体液に直接溶けている点が違います。
ヘモシアニンはタンパク質の中でも最大級の分子で、イカなどの頭足類のものは10個の単位が集まり、分子量は約350万〜450万にもなります。血液中の濃さも高く、南極のタコ Megaleledone setebos で1mLあたり89mg、Loligo vulgaris では160mgを超えることもあります。
水温の影響も調べられています。低い水温ではヘモシアニンが組織へ酸素を渡す力が下がることがあり、南極のタコ Pareledone charcoti では、0℃でヘモシアニンからの酸素の受け渡しは少なかったものの、血液に溶けている酸素の多さがそれを補っていました。
えらだけでなく、皮膚からも酸素を取り込む
1996年の研究では、安静時の Octopus vulgaris で、全体の酸素の必要量の約41%が皮膚からの取り込みでまかなわれうると見積もられました。実験室での皮膚と個体の測定からの見積もりです。
なお、日本のマダコの学名は Octopus sinensis とされ、ここで紹介した測定の多くに使われた地中海の Octopus vulgaris とは近縁の別の種です。数値をそのまま日本のマダコに当てはめることはできません。
よくある質問
心臓が3つあるのは、タコだけですか?
いいえ。体心臓1つと鰓心臓2つのつくりは、タコ・イカ・コウイカの仲間(鞘形類)に共通しています。
なぜ心臓が3つに分かれているのですか?
研究で説明されているのは、体へ血液を送る体心臓と、えらへ血液を送り込む鰓心臓という役割の分担です。
タコの血は、なぜ青いのですか?
血液に溶けているヘモシアニンという銅を含むタンパク質が、酸素と結びつくと青くなるためです。ヘモグロビンと違い、血球の中ではなく体液に直接溶けています。
まとめ
タコの心臓は3つです。体から戻った血液を左右のえらへ送り込む鰓心臓が2つと、えらで酸素を受け取った血液を体へ送り出す体心臓が1つあり、イカやコウイカにも共通するつくりです。血液には、酸素と結びつくと青くなるヘモシアニンが溶けています。
動き回ると血圧や血流は増えますが、水を噴き出して進むときには心臓の停止がともない、噴射で進めるのは数メートルまでとされています。研究の多くは地中海の Octopus vulgaris のもので、日本のマダコとは別の種です。